A5判 496p
少なく見積もっても2500万人以上の死者を出したといわれる、1918-1919年のインフルエンザ(通称「スペインかぜ」)。本書は社会・政治・医学史にまたがるこの史上最大規模の疫禍の全貌を明らかにした感染症学・疫病史研究の必読書。
この新装版には訳者による最新の解説「パンデミック・インフルエンザ研究の進歩と新たな憂い」が付され、発生が近いといわれる新型インフルエンザ、およびそのパンデミック(汎世界的流行)対策の現状に引きつけた史実の読解が促されている。
著者クロスビーは本書で、世界情勢と流行拡大の関連のようなマクロな事象から一兵卒の病床の様子まで、1918年のパンデミックの記録を丹念に掘り起こしている。特に大都市での流行が「グランギニョール的カオス」に至る様は、読者のこの病への畏怖を新たにさせずにはいられない。
しかしインフルエンザの真の恐ろしさは、罹患者数の莫大さによって実はけっして少なくない死者数が覆い隠され、「みんなが罹り誰も死なない」病として軽んじられることにあると著者は警告する。大震災と同じく歴史上数十年の間隔を置いて繰り返しているパンデミックに備え、改めて史上最悪のインフルエンザの記憶をたどり、社会あるいは個人レベルの危機管理の問題点を洗い直すうえで必備の一冊だ。